「導入したのに誰も使わない」を防ぐ!発注側が主導するシステム定着術

ケーススタディ

稼働初週、ダッシュボードのログイン数は初日にだけ跳ね、その後は右肩下がり。現場は「忙しいから今は旧エクセルでやる」と言い、紙とシステムの二重入力が発生。ベンダーは「要件通りリリース済み」と言い、役員からは「投資対効果は?」と詰められる。あなたは改善依頼の稟議、教育計画、クレーム対応で日々が過ぎ、定着は遠のいていきます。

本記事では、現場を動かすための最小限で強い型を2つに絞って解説します。1つ目は軽量版のチェンジマネジメント(ADKAR)でメッセージと支援策を組むこと、2つ目は定着KPIと「日次の儀式」で行動を固定化することです。明日から会議で使える台本とテンプレートも用意します。

導入したのに誰も使わない!現場でよくある悲劇

新システムの説明会は満席、アンケートも高評価。ところが翌週、現場は旧Excelを開いて業務を回しています。問い合わせは「どこを押せばいいの?」ではなく「前のやり方のほうが早い」ばかり。管理職は「期末で忙しい、定着は来月から」と後ろ向き。ベンダーは「操作マニュアルは渡しました」。情報システム部は「並行運用はリスク」と眉をひそめます。結果、以下が起きます。

  • 二重入力・二重チェックで現場の残業が増える
  • データの整合が崩れ、経理や在庫で突合の手戻りが発生
  • 責任の所在が曖昧になり、「誰が止めるか」で社内の無駄な調整が増加
  • 「使えないシステム」というレッテルが貼られ、改善提案も集まらない

典型的な失敗パターンは、導入直後に“使う場面”が設計されていないことです。「教育はやった」「マニュアルは配った」で満足し、明日からどの業務をどう変えるかの段取りが抜けます。さらに“上からの意思表示”が弱く、現場は安全策として旧やり方を選びます。こうして「一度ついた悪い評判」を覆すコストが雪だるま式に増えていきます。

なぜ使われない?定着を阻む見落としがちな原因

使われない理由は技術ではなく、人の行動です。

よくある見落としを、現場で観測できるサインとセットで整理します。

障害典型サインよくある一言
目的が現場の利益に接地していない目標は「全社最適」、現場指標は未定「結局、私たちの時間は減るの?」
上位者のコミットが弱い管理職が旧Excelで報告を受ける「今期はどちらでもOK」
最初の一歩が曖昧初日に何をどこで使うかが不明「忙しい日は後回しにする」
助けを呼ぶ場がないチャットは静か、同じ質問が個別に来る「誰に聞けばいい?」
評価・ルールがズレている成果評価はスピード、ルールは厳格化「早く終わる方法(旧やり方)を選ぶ」

本記事では対処の2つの軸に注目します。

1つ目は、変化を段階で設計するチェンジマネジメント(組織の行動を変える手順の設計:Change Management)。特に「認知→意欲→知識→能力→定着」という5段階(ADKAR)の抜けを埋めます。

2つ目は、定着KPI(重要指標:Key Performance Indicator)の「先行指標」を決め、毎日・毎週の“儀式”(短い定型ミーティングや報告の習慣)で回すことです。これにより、お金は教育や改善に集中し、時間は“迷い時間”を削減し、社内の合意形成はルールと数字で裁けます。

現場を動かす!業務リーダーのためのチェンジマネジメント

ここでは“軽量ADKAR”と“定着KPI+儀式”の2つの方法を紹介します。

  • 軽量ADKAR
    • 認知(Awareness):なぜ今変えるのか。現場の痛みと数字で語ります。
    • 意欲(Desire):自分に何の得があるか(WIFM)を具体に。1件あたり処理時間-3分など。
    • 知識(Knowledge):どの業務でどのボタンか。10分動画と1ページ手順に絞る。
    • 能力(Ability):実際に使う場面を作る。初週は旧Excelを閉じる日を決め、伴走者を配置。
    • 定着(Reinforcement):評価・ルール・称賛で固定化。週次で達成チームを可視化。
  • 定着KPI+儀式
    • 先行指標(行動の量):ログイン率、初回登録完了率、旧Excel更新回数ゼロ率
    • 遅行指標(成果):処理リードタイム、エラー率、返品率
    • 儀式の設計:
    • 日次10分:昨日の先行指標とブロッカー共有。「誰が・いつ」除去するか即決
    • 週次30分:達成率と称賛、改善要望のTOP3選定、上申事項の確定
    • 管理職ライン:旧やり方での報告を禁じ、例外は承認制に

注意点は、すべてを一度にやらないことです。最重要の業務シナリオを1つに絞り(例:受注登録)、そこで先行指標を3つだけ追います。現場は“何をやれば合格か”が明確になると動きます。逆に、メニューが多いほど旧習に戻ります。

明日から実践!定着を促す会議・説明の話し方とテンプレート

現場でそのまま使える台本・文面・フォーマットのサンプルは以下のような感じです。適宜状況に合わせてご活用ください。

  • キックオフ台本(初週の朝礼)
    • 目的(認知)
      • 「今期の遅延原因の36%が二重入力でした。今日から受注は新システムに一本化し、処理時間を平均3分短縮します」
    • 現場メリット(意欲)
      • 「1日20件で1時間の捻出。17時の定時退社を増やします」
    • 最初の一歩(能力)
      • 「本日はA班が実登録、B班は見学。10時と15時にその場QAをします。旧Excelは本日閉鎖します」
    • ルール(定着)
      • 「今週の報告は新システムのダッシュボードのみ。例外は私の承認が必要です」

場合によっては、反対者が出ることもあると思います。そういった場合には、1on1等で、反対者の懸念を解消して、どんどん巻き込んでいきます。

  • 反対者への1on1質問例
    • 「今のやり方で一番時間を食っている作業はどれですか?」
    • 「その5分を短縮できたら、今日何をやめられますか?」
    • 「初週に限り、私が承認者として横に座ります。どの時間が良いですか?」

全社へのメール連絡する場合はシンプルにすることも大事です。

  • 全社向け周知メール(管理職名義)

件名:受注登録の新システム一本化について(今週の運用)
本文:

今週から受注登録は新システムに一本化します。

日次の先行指標は[ログイン率/初回登録率/旧Excelゼロ率]です。
ご確認の上、指標達成にご協力ください。

運用ルール
– ダッシュボードを毎朝9:30に共有
– 日次、週次でモニタリングし、結果は課長職以上に共有
– 例外運用は課長承認
– 初日のサポート窓口:Teams #受注_定着(即時対応)

新しい仕組みの対応で一時的に不便が発生するかもしれませんが、全社の目標である「XXX」を達成するための取り組みであるため、ご協力お願いします。

その他、会議のアジェンダや定着KPIボードはおおむね以下のような形でも問題ありません。

  • 会議アジェンダ(週次30分)
    1. 先行指標(目標/実績/差分)5分
    2. ブロッカー除去(担当/期限)10分
    3. 称賛・事例共有 5分
    4. 改善要望TOP3選定と上申事項 10分
  • 定着KPIボード例
指標目標実績(今週)備考
ログイン率95%91%A課でPC台数不足。火曜に増設
初回登録完了率85%78%返品フローで迷い。動画差し替え
旧Excel更新ゼロ率100%88%特例対応2件。来週以降禁止

会議での言い回し例
「批判は歓迎ですが、旧やり方への後戻りはしません。代案は“誰がいつ”実験できるかで判断します」

「使われない」を解決!定着化に成功したイメージ事例

部品卸A社(受発注40名、月間注文1.2万件)の例です。新システム導入直後、2週目の利用率は18%、旧Excel併用で誤出荷が増えました。改善要望は70件超。ここで業務リーダーが“軽量ADKAR+KPIと儀式”に切り替えました。

  • 認知・意欲の再設計
    • 朝礼で「二重入力が月70時間の残業を生む」事実と、「1件あたり3分短縮、今月の残業を2割削減」のメリットを宣言。管理職が「旧Excelでの報告受領を停止」と明言。
  • 知識・能力の集中投下
    • 業務シナリオを受注登録のみに絞り、10分動画とA4一枚の手順に整理。初週はA班のみ実登録、B班は観察とQA。ベテラン2名を“伴走者”に任命し、席を隣に配置。
  • 定着の仕組み化
    • 先行指標を「ログイン率・初回登録率・旧Excelゼロ率」に限定。日次10分・週次30分の儀式を運用。例外は課長承認に。

結果(4週目時点):
– ログイン率92%(+74pt)、初回登録率87%(+69pt)、旧Excelゼロ率98%
– 受注処理リードタイム-31%、誤出荷-42%
– 改善要望は12件に整理、うち8件は翌週リリース

改善前は「使いにくい」の声が渦巻き、何を直せばいいか不明確でした。改善後は、先行指標で“止血”しつつ、称賛と例外ルールで空気を変え、仕様改善は数字に基づいて優先度を決められる状態になりました。業務リーダーが握ったのは高度なITではなく、「言い切り」「最初の一歩」「毎日の儀式」という3つの運用でした。

まとめ

  • 使われない理由の多くは人の行動設計の不足です。目的の接地、最初の一歩、上位者の意思表示が鍵です。
  • 軽量ADKARでメッセージと支援策を組み、定着KPI(先行指標)と短い儀式で行動を固めます。
  • テンプレ(台本・メール・アジェンダ・KPIボード)を使い、迷い時間を削ります。
  • まず1業務シナリオに絞り、例外は承認制で“後戻り”を塞ぎます。

明日ひとつだけやるなら、「先行指標3つ(ログイン率・初回登録率・旧Excelゼロ率)を決め、日次10分の朝礼で共有・ブロッカー除去を回す」と宣言し、上記の5分台本で始めてください。

参考リンク
– Prosci: ADKARモデル(変革の5段階) https://www.prosci.com/methodology/adkar
– チェンジ・マネジメントのためのADKARモデルの使い方 https://clickup.com/ja/blog/223742/adkar-model
– チェンジマネジメントのフレームワーク8選!組織における行動変革に必要なステップと手法を解説 https://hq-hq.co.jp/articles/250627_198

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