発注側リーダーのためのMECE超実践入門プロジェクトのベンダー対応と上層部説明術

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発注側のリーダーとして、限られた時間と情報の中で「決める」「伝える」「動かす」をやり切るには、論点の抜け漏れと重複を最小化する仕組みが必要です。この記事では、コンサルの現場で磨いたMECE(漏れなく、ダブりなく)を、事業会社の企画・業務リーダーが今日から使えるレベルにまで分解。意思決定・ベンダー対応・上層部説明の3つの実務に直結する手順・型・例を「超実践」モードで解説します。

MECEで漏れなくダブりなく:発注側リーダーの意思決定と優先順位付け基礎実務入門

MECEとは、論点や項目を「漏れなく、ダブりなく」並べる思考の骨格です。発注側リーダーにとっての効用は3つ。抜け漏れによる手戻りを減らす、重複議論で時間を浪費しない、論点を明確にして関係者を動かしやすくする。ITに詳しくなくても、切り口さえ正しければ十分に機能します。

意思決定の最小フレームは「目的→論点→選択肢→評価→決定→アクション」。MECEを意識すべきは「論点」と「評価」の切り口です。論点は独立した枝(例:費用、時間、品質、リスク、体制)に分け、評価は排他的・網羅的な基準(例:ビジネス価値、実行容易性、コスト、リスク、整合性)で点検すると、どの選択肢が妥当かが自然に浮かび上がります。

具体例でいきます。たとえば「店舗向けアプリ刷新」。目的をMECEで「成長(売上)・効率(業務時間)・リスク低減(障害/セキュリティ)」に分解。次に施策の選択肢を「全面刷新・段階的刷新・現行改善」に切り出し、評価軸を「顧客価値・導入コスト・リードタイム・運用負荷・技術リスク」で固定化。各軸は独立させ、主観ではなく数値や事実で埋めます。

優先順位付けは「効果×実行難易度」の2軸がシンプルで強力です。まず全タスクをMECEに「機能開発・非機能(性能/セキュリティ)・運用設計・移行・教育・ガバナンス」に分類。次にMoSCoW(必須/すべき/できれば/今回はやらない)で粒度を揃えて棚に並べ、四半期ごとに効果(売上・コスト削減・リスク低減)見積を更新。週次で「今週は何を落とさず何を捨てるか」を明確にします。

よくある失敗は3つ。切り口の混在(例:コストの中にリスクを混ぜる)、時間軸と対象の混在(短期タスクに長期目標を紛れ込ませる)、MECE至上主義で思考停止(分けるだけで決めない)。対策は、最初に切り口を合意し、タイムボックスを設定、80/20で暫定決定→実行→学習のループに入ることです。

現場で使える最小テンプレートは1枚です。目的/制約/論点、選択肢(A/B/C)、評価基準(5つまで)、判定(ランクやスコア)、決定、次のアクション(担当・期限)。会議冒頭で「今日決めること」を口頭で宣言し、会議末尾で「決めたこと・やらないこと」を読み上げるだけで、MECEの効果は劇的に高まります。

 

ベンダー要件整理と見積評価をMECEで分解、発注側交渉の論点を網羅する実践手順の型

要件整理のMECEは「業務→システム→移行→運用→体制・支援」の5棚から始めます。業務はプロセス(注文→出荷→請求など)、システムは機能(登録・検索・連携)と非機能(性能・可用性・セキュリティ)、データはマスタ/トランザクション、連携は内外部IF、移行はスコープ/方式/データ品質、運用は監視/保守/SLA、体制は役割/責任/ガバナンス。まずこの棚に全要件をラフにマッピングし、空白(漏れ)と重複を潰します。

RFPは「スコープ記述」「成果物一覧」「前提・制約」「受入条件」「見積様式」「スケジュール」「評価基準」を独立させます。特に重要なのは「含む/含まない/前提」の三段表記。曖昧な領域ほど、MECE棚に引き直して「誰が・何を・どこまで」を言語化します。ベンダー回答は「RFP項目×回答」の対照表にし、未回答・条件付き回答・代替提案を色分けして比較可能にします。

見積評価は「数量×単価×前提」の三分解が定石です。内訳を人月(工程別)、ライセンス(種類/課金単位)、インフラ(クラウド/ネットワーク)、諸経費(旅費/環境)に分け、各項目の数量根拠(WBS・生産性・過去実績)と単価根拠(レートカード・市場相場)を確認。前提(仕様確定度・品質基準・レビュー頻度)を合わせないと、ベンダー間比較はできません。前提を標準化して「リンゴとリンゴ」の比較に揃えます。

交渉は論点ツリーで臨みます。主論点は「価格」「納期」「品質」「体制」「リスク配分」。各論点ごとに「事実→影響→依頼→代替案」で会話を設計します。例:「中間成果物が不足(事実)→受入工数が増える(影響)→成果物追加を依頼(依頼)→代わりに進め方をアジャイルに変更しレビュー回数を最適化(代替)」のように、MECEで整えた選択肢の中からトレードを作ります。

リスク配分はMECEで網羅が肝。変更管理(スコープ変動時の手続・単価)、遅延時の対応(是正計画・ペナルティ/インセンティブ)、受入/検収(基準・期間・再試験)、知財(成果物の権利・再利用可否)、セキュリティ/個人情報(責任分界)、継続性(要員交代/バックアップ)。RAIDログ(Risk/Assumption/Issue/Dependency)に全ての項目を棚入れし、会議体での合意事項に格上げします。

レッドフラグは初期に炙り出すのが最安です。「工数の黒箱(WBSが粗い)」「曖昧な前提(他社依存が多い)」「要員未特定(キーメンが未定)」「クリティカルパス不提示」「コミュニケーション計画なし」。対策は3つの要求で十分効きます。WBSを2–3階層で提示、クリティカルパスとスラックの明示、週次運営とエスカレーションルールの定義。MECEで穴を塞げば、交渉は「お願い」から「取引」へと変わります。

上層部説明術:MECEで論点整理、決裁資料と口頭説明のストーリー設計と反論処理の実践

上層部が知りたいのは「なぜ今」「いくらかかり」「何が得られ」「何がリスクで」「あなたは何をしてほしいか」。これをMECEに5枚で組みます。1枚目に結論と要請、2枚目に現状と課題、3枚目に選択肢比較、4枚目にリスクと対策、5枚目に投資対効果とロードマップ。枚数を絞るほど論点は鮮明になり、意思決定は早まります。

スライド構成の独立性を担保します。結論スライドはKGI/KPI、所要予算、求める決裁事項(例:RFP発出、予算枠、体制承認)。現状・課題は事実ベース(障害件数、業務時間、顧客離反、技術老朽)。選択肢比較はA/B/Cの3案に限定し、評価軸を固定(価値・コスト・スピード・リスク・戦略整合)。リスクはトップ5に絞り、各々に一次対策とトリガー。ロードマップは四半期粒度でゲート明記。

数字の作り方もMECEで。ベースライン(現状コスト/価値)→変化(改善幅)→増分コスト(開発/運用)→純効果(ネット)。不確実性はレンジで表現し、感度分析(±20%)で意思決定耐性を示す。例えば、問い合わせ削減20–30%、処理時間短縮30–40%、売上寄与1–2%。根拠は出典と仮説の両方を明記し、最悪ケースでも成立するラインを示すと、上層部は安心して承認できます。

反論処理はQ&Aツリーで準備します。典型論点は「なぜ今やる」「内製か外注か」「既存資産の活用は」「情報セキュリティは」「予算超過時の対応は」。各問いに「一言結論→根拠3点→代替案」の順で返せるように、1枚補助スライドを用意。たとえば「なぜ今」には「機会損失が大きい・技術サポート期限・競合の先行」の3点で答える、などです。

口頭説明はピラミッド原則で。冒頭60秒で「結論・理由3つ・要請」。次に選択肢比較と意思決定基準を提示し、議論の土俵を固定化。専門用語は避け、数値と比喩で伝える(例:「今の基幹は三車線の国道、成長には高速道路が要る」)。時間は配分を決め、反論に5割を残す運営が吉。議事はその場で「決めたこと/保留/宿題」を読み上げて閉じます。

最後はガバナンス。決裁後に「決定ログ」「コミットメント表」「次回ゲート条件」を共有。成功指標はMECEに「価値(売上・コスト)・進捗(マイルストーン)・品質(欠陥・SLA)・健全性(満足度・離脱率)」で定義。週次では、赤黄緑の健康度、リスク上位3、意思決定待ちをワンページで報告。これだけで、上層部の安心感と支援の質が上がります。

MECEは「考えをきれいにする技」ではなく、発注側リーダーが現場で勝つための「実務の武器」です。意思決定は1枚、ベンダー対応は棚と対照表、上層部説明は5枚と60秒。まずは次の会議から、切り口を決めて話を始め、決めたこと・やらないことを読み上げるところまでやってみてください。小さな実践が積み重なれば、プロジェクトは驚くほど静かに、しかし確実に前へ進みます。

 

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